Cotswolds Part 1 

Gastard LacockVillage Bibury St Aldwyns

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Gastard

ボーイズファーム (コーシャム) Boyds Farm (Corsham)  

 

英国旅行の楽しみの一つは、色々なB&Bに泊まってそこの主人と会話したり美しく飾り付けられた建物の内外を鑑賞する事にある。
今回の旅行で私達は8カ所のB&Bに泊まったが、いずれもBTAで貰ったリストではhighly commended又はcommendedとなっていた所ばかりだったせいか、建物、周辺環境、主人の人柄、のいずれの点でも大変に満足出来るものであった。

このB&Bは、バース近郊のコーシャム地区のガスタード村にあり、周囲はぐるっと大きな牧場に取り囲まれている。この家でも名前の通り農業が本職であり、この玄関から少し離れたところには農機具や作業小屋が並び、駐車場近くには農作物の販売コーナー等もある。

ここの女主人は多少小太りで眼鏡をかけており、いかにも親切そうである。 私が、とてもいい建物ですねと誉めると、「これは16世紀の農家で(伝統的建築物台帳か何かに)リストアップされているんですよ」との事。
内部はゆったりと作られており、私達が案内された部屋はベッドが3つもあるが、(「好きなようにベッドを使って下さい」)その上更にダンス出来る位のゆとりがある。 広さ20畳くらいか。 かつてはここの娘さんが使用していたらしく、戸棚には女の子の写真が沢山並んでいる。
バスルームは廊下に出てすぐ左の部屋であるが、入ってびっくり、ふかふかの絨毯が敷き詰められた大きな部屋で、右手に立派なバスタブが鎮座ましまし、向こうの隅に洋式の便器(当たり前か?)が小さく見える。左の壁には乾燥パネルが設置されその近くには安楽椅子が、突き当たりの壁には大きな洗面台が。 お湯をたっぷりとはって湯船につかり部屋の内部を観察する。「う〜ん、王侯貴族もかくや!」 
しかし、絨毯を汚さぬよう恐る恐る体を洗わざるを得なかったのは、私の庶民性の故か。

その後階下の応接間に呼ばれ、飲み物をどうぞ。私がのどが渇いたのでビールを飲みたいと言うと、「大変申し訳ないがここではアルコールを出すことは出来ない(その免許が無い)」と言ってから、「そうそう、自家用のビールがあるから、それをあなたにプレゼントしましょう。代金はいりません。」  やっぱり親切な人だった!
他のファームハウスのB&Bでも感じたことだが、女主人達は、農家をしているといっても、全く田舎臭さを感じさせない。それどころか品の良ささえ感じさせるのはどうしてだろう。 このような農家は恵まれた方に属するからだろうか。

 

 

ボーイズファームの作業小屋 (コーシャム) Boyds Farm (Corsham)

 

母屋と違い、こちらは屋根はスレート葺きで、壁の石材もあまりいいものを使っていない。材質はライムストーンという石灰岩の一種。この付近に産する石とはいえ、大きな家を建てるとなると大量に必要とするため、かなりの財力を要したろう。

 

 

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Lacock

National Trust

 

 

レイコックアビー ( レイコック村 )  Lacock Abbey ( Lacock)

 

 

 

 

レイコックアビーの裏壁と階段 ( レイコック村 )

 

この修道院はソールズベリーの伯爵夫人エラによって1232年に作られたが、修道院解散後ヘンリー8世によってウイリアム・シャリントンに売られた。シャリントンはこの修道院を自宅に改築し、その際教会の建物は解体されてその石材で塔や馬屋が建設された。しかしながら、今でも修道院当時の回廊や美しい中庭、そして中世以来の建築部分が残されている。

上の写真から分かるように、正面は立派な石材を用いて堅固に作られているが、裏に回ると角に置く隅石以外はくずのような細かな石を丹念に積み上げている。いかに石の豊富な英国とは言え、これだけの建物を造るには大変な量の石材が必要で、教会を潰してそれで馬屋を造るという一見罰当たりな真似も必要に迫られての事だろう。(なお、修道院付属の教会は壊されたが、村人用の教会は今でも残っている)
この様に700年に及ぶ歴史の中では、政治・宗教・権力争い等々にからむ忌まわしい出来事が多々あったであろうが、この建物はそれらをじっと見つめ続けてきたのだ。内部のすり減った石の階段や手すり、そしてすすけた壁にじっと見入っていると、それらが何かを語りかけてくるようで不思議な感慨に襲われる。
左の写真は建物の裏庭に面した壁であるが、大人一人がやっとしゃがんでくぐれるだけの入り口があったようだ。何に使われた入り口かは分からないが、修道院だった当時の旧教と新教そして政府とのドラマチックな確執を考えると、色々な想像をかき立てる。

 

 

 

 

 

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レイコックビレッジの街角から

 

レイコック村は、バースの北東に位置し、車で40分位の距離にある。戸数百位の小さな村だが、歴史はレイコック・アビイ(修道院)が建設された1232年に遡る。
この村には、この修道院の建物と、世界で始めて写真を撮ったタルボットに関する博物館くらいしか無いが、目立った歴史遺産が無くとも大変に魅力的なところだ。 それは、村全体が二百年前の姿のままで保存されているからだ。(勿論個々の建物がいろんな歴史を持っていて、中には三百年、四百年前の建物もある) そしてここでは、その古い建物の中で、人々の生活がごく普通に営まれている。

人が普通に生活したまま古い建築などの遺産を保全するのが英国流のそして最も良い方法なのだ。人が住むと言うことは、温度湿度などを人にとって心地よい状態にコントロールすると言う事を意味する。 それはきっと建物にとっても良いことに違いない。では、そこに住む人にとっては古い建物はどうなのだろう。
窓が少なく暗い、そして場合によっては狭い、床がゆがんでいる、熱効率が悪い、等々現代建築と比較すると欠点ばかりが目立つ。
しかし英国人はそれ以上のものをこの古い家から得ているのだ。石や太い木材の持つ確かさ、周囲との景観上の調和、仮に崩れ去ってもその素材は自然に帰っていくだけと言う精神的な安らぎ、そして古い家に住む誇り。
以下でその町並みの様子をじっくりとご覧頂くが、太い樫の木で作った枠組みの中に石や煉瓦を詰め頑丈な壁を作るチューダー朝様式のものが目に付いた。
村全体はナショナル・トラストによって保存されている。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黄色い家

 

 

 

ピンクの家

 

 

 

教会への通路

 

 

レイコックビレッジの古い壁 ( Old stone wall in Lacock )

 

私は建物の古い壁が好きだ。 昔油絵を描いていた時、公募展等に応募する作品の殆どが壁や老人を描いた物だった。 これらはいずれも大変に私の創作意欲をそそる。
何故だろう。 理由を考えてみて気が付いた。 いずれも、時の流れの重さに真剣に対峙しそれを自身に刻み込んでいる存在だからだ。 そしてこのような存在は他にあまり無いのだ。

 

紫と白の花

 

古い家具の修理店

 

玄関先の犬は退屈そうにうなだれていたが、私達がそちらに歩を進めたので、突然シャンとなった。ピント伸ばした首筋や尻尾の先まで期待が満ち満ちている。

 

 

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Bibury
St Aldwyns

 

 

マナーハウスの大木 (バイブリー) A big tree in Bibury Court Hotel

 

 

英国の田舎では主としてB&Bに泊まったが、何泊かは豪華なマナーハウス(Monor House)に泊まろうという事になった。
マナーハウスとは昔の領主の館で、それをホテルに改装したものである。(昔の領主の城や館では、大地主としての地位を失った現在では、その維持・相続に困難をきたし、多くがホテルや博物館として生き残りをはかっている) 

日本から電話で予約しておいたここバイブリーのマナーハウスは、広い地の中に大きな花園や林もあり川も流れていて水鳥が遊んでいる。 希望すれば鱒釣りをする事も出来る。 門から玄関までは百メートル近くもあろうか。 玄関前の芝生は野球が出来るほどの広さがあるが、それをただの芝生として維持している所がすごいと思った。
我々がここに着いたのは夕方であったが西日が差して庭の大木が長い影を落とし、木の葉がきらきらと輝いて運転に疲れた目には心地よい。 支配人の中年の女性も、建物の内装もとても素敵だった。

ゆっくりと夕日に輝く広い庭を散歩し、シャワーを浴び、スーツに着替えてからレストランに向かう。このようなホテルではディナー時は必ずきちんとした服装を要求されるし、英国人の知人宅を訪問する予定もあったので、軽くてかさばらないのを荷物に入れておいたのだ。
ずっとTシャツにジーパンという気楽なスタイルだったので、久しぶりにスーツを着るとシャンとした気持ちになる。 そのシャンとした気持ちのまま背筋を伸ばして妻とレストランに向かう。 妻も少しドレッシーなワンピースだが、同じくシャンとしている。 
入り口では先程の支配人の女性が待機していてにこやかに挨拶しながら客をあちこちに案内している。 私達の番になり、どうぞこちらへと促されて行き着いた部屋は、豪華なシャンデリアが輝きゆったりとしたソファーがいくつも並ぶラウンジだ。 蝶ネクタイのウエイターが現れて、お飲物は何になさいますか? ・・・・食事前はここでゆったりと会話などを楽しみながらアペリティフを飲みなさいという事なのだろう・・・・ 妻はフレッシュジュース、私はワインを飲みながら、渡されたメニューを検討する。 日本と違い欧米のレストランではメニューの選択をせかされることはない。 時間をかけて、私は鱒料理、妻は鴨料理に決める。 2人で分け合って両方楽しもうというわけだ。
やがて案内が来て食堂に通される。 どのテーブルも客で一杯だ。 辺りを見回すと日本人と思しきグループが我々の他に3組居る。 向こうもこちらの存在に気付きちらちらと見ている。 あの東洋人らしい夫婦は日本人かしら?・・・等と話しているのであろう。 こちらは場慣れした風を装いつつ優雅にワインを飲み、おしゃべりをし・・・・・・・うん、この料理はなかなかいける! 

 

 

バイブリーコートホテル

 

 

 

私達が泊まった部屋

 

 

ホテル敷地のはずれにある石の橋

 

 

 

バイブリーからセント・オルドゥインへの散歩

 

 

パブリックフットパスの標識 (バイブリーにて) A sign of Public Footpath

 

英国人は皆歩くのが大好きだ。 田舎に行くとどんなところでも必ずウォーキングの人達に出会う。その様な国民性を反映してか、英国では至る所にパブリックフットパスと呼ばれるウォーキング用の道が走っている。
一口にパブリック・フットパスといってもその様子は様々だ。 同じ一本の道であっても、ある部分は道幅もあり石畳で覆われているかと思うと、ある部分はまったくの獣道だったりする。 いくつもの私有地を横切っていくのだからある意味では当然である。
牧場あり、畑あり、民家の裏庭あり、川ありと変化に富んでいるのが楽しい。私有地の境界には殆どの場合扉があるが、これを自分で開け、通過後また掛け金を掛ける、これがマナーだ。

ただ感心するのは、私達のようなウォーカーのために犠牲を払って道を提供してくれるその精神である。牧場の場合はまだいいが、私達が通った麦畑では幅1m長さ何百mにも渡ってフットパスにしてある。つい、これだけあれば何十キロもの麦が収穫できただろうに…、と同情してしまう。この通行権の保障という事に行き着くまでにきっと大変な歴史が秘められているのだろう。

この歩行者専用のパブリックフットパスに類似した物として、ブライドルウェイズ、バイウエィズというのがある。 ブライドルウェイズは、歩行者・乗馬する人・サイクリストのための道。 バイウエィズは比較的広い道が多く、歩行者・乗馬する人・サイクリストの他、車の通行も認められている。
ただ、私達がパブリックフットパスだとばかり思って歩いていた道でもある所では馬の人とすれ違ったり、バイクの少年に追い越されたりしたこともあったので、あまり厳密に区別されていないのかもしれない。 長い道は数百キロにも及んでいるのだから、部分的に入り混じっていることは当然あり得るだろう。

二日目の朝、マナーハウスの支配人に尋ねると、隣村までのとても良い川沿いのコースがあるというので早速歩いてみることにした。 これを予定して、ウォーキングにもフォーマルな場にも使える靴(昔、丸善で買った靴だがまだ売っているであろうか、この靴はなかなか重宝した)を履いてきているので足回りは大丈夫。 では出発!

 

 

水車小屋 (バイブリー)   A water mill ( Bibury )

 

マナーハウスの広い芝生の横を小川が流れているが、それに沿って川下へ歩いて行くと小さな石の橋が現れた。ここが敷地の境界線のようだ。振り返ると芝生の遠くにマナーハウスが小さく見える。この石の橋を渡ると、戸数20戸ほどの小さな集落があり、その中を隣村セント・オルドィンへのフットパスが走っている。 集落に入ってすぐ右手に2階建ての水車小屋があるが、この写真の建物もそれの関連施設のようで、わざわざ水の中に建ててある。
曇り空から太陽が顔を出し、建物の壁が明るく輝き始めた。古い石の壁に苔むしたスートの屋根はとても風情があるが、それをバックにしたこの小さな花達がなんとも愛らしい。
このような困難な場所に花壇を作って彩りを添えようというここの住人の美意識に、つい尊敬の念を抱いてしまった。
水に反射した建物と青い空に見とれているうち、どんな田舎のどんな片隅にも美のかけらは転がっているものなんだ、と、新たな発見をした気持ちになった。

 

集落を抜けると田園地帯が続く。
この付近では乗馬をしている人達とすれ違った。

 私達が通りかかると皆寄ってきてモーモーと騒がしい事

左に川が流れている。この川沿いに進む。
ずっとこんな具合に晴れていると良いのだが・・・・

道は川を離れてこのような林の中をも走っている。
ずっと向こうに見えるのが林の出口で、扉があるのが分かる。

私物の丸木橋につき通行禁止。向こうの土地の所有者の物らしい。
この他、私有地につき釣りを禁ずというのもあった。

 

 

 

 

フラッド ( Flood )

 

川の流れは本当に緩やかで、このように河岸との高低差が殆ど無いところもある。
このような場所では雪解けや大雨の後では岸辺一帯も水で覆われてしまうためFloodと呼ばれる。

 

 

有刺鉄線沿いの道

 

 

 

草原

 

 

 

雲と丘陵のフットパス (バイブリー)   
Hilly footpath under clouds  (Bibury)

 

さて、私達が今歩いているところは歩きやすい川沿いの牧場であるが、まったく道が無い。歩いていてこの方向でいいのだろうかと次第に不安になってくる。そのうちさきほどからの小雨も止み、向こうの空に小さな青空が顔を出した。 よく目を凝らすと木々の間を歩いてくる二人連れも見える。
 「この方向で良かっんだ!」
ほっとすると同時に、希望が一気に向こうの方角から訪れた気がした。  

 

 

民家の庭先を流れるコルン川(セント・オルドウィン近く)
Coln river and the garden (near St.Aldwyns)

 

ここでコルン川は民家のすぐ庭先を流れている。 自分の庭の中をこのようなゆったりとした小川が流れていたらどんなにかいいだろう。 私は幼い頃、魚釣りをしたり木を削ってボートを作ったりするのが好きだった。 近くの公園に出かけては手製のボートを走らせたり、管理人の目を盗んで鮒釣りをしたりしたものだ。 このような自然な川なら、水性昆虫も沢山居るに違いない。 勿論大人にとっても最高の環境だ。 川べりの緑の芝生の上でコーヒーを飲んだり読書したり・・・・・・何という贅沢だろう!  

 

 

 

コルン川と民家 (セント・オルドウィンの近く ) Coln river and the houses (near St.Aldwyns )

 

私達が散策したフットパスはコルン川沿いであるが、時として大きく川から離れたりまた出会ったりを繰り返す。 川は再会する度にその姿を変えていた。

ある場所では周囲と高低差が殆ど無く一度大雨が降るとあたり一面水の下となるフラッド(洪水)と呼ばれる土地を流れていたかと思うと、丸太の橋が架かった狭い河幅を音を立てて流れてたりする。 芝生できれいに手入れされた民家の裏庭を流れていることもあったが、まるでその庭の付属物みたいな表情をしていた。「私有地につき、釣り禁止」と書いた看板が打ち付けられた柳の木の下で、あひる達と遊んでいることもあった。牧場の川縁の羊達の姿を映しながら流れている事もあった。

この流れの存在は、フットパスに大きな彩りを添えてくれて、我々ウォーカーにとっては最高のプレゼントだ。水の流れというのは何故こんなにも我々を引きつける魅力を持っているのだろう。
写真は、あともう少しでセント・オルドウィン村という畑の中の流れで遠くに農家の建物が見える。 コンクリートで護岸工事をしていない自然な流れというものが、いかに魅力に富んでいるか痛感した。
 

 

St Aldwyns

フットパス終着点近くの家 (セントオルドウィン)

セントオルドウィン集落入り口 ( St Aldwyns )

The New Inn という名のパブ ( St Aldwyns ) 

昔は旅籠として賑わったそうで、現在も2階に宿泊客を泊め、1階ではレストラン兼パブを営んでいる。 到着時間が2時を過ぎていたため残念ながら昼食を食べることが出来なかった。 仕方なくビールとクラッカーを注文。 空きっ腹にビールは効く!


午後の田舎では人に出会うことはまれである。昼食後はゆっくりと家の中で休んでいるのだろうか。 そんな事を考えながら歩いていたら、向こうから自転車に乗った老人がやってきた。 田舎で自転車を見たのはこれが初めてだ。

セントオルドウィンの教会 ( St Aldwyns )

 

 

 

セントオルドウィンの母子 ( St Aldwyns )

 

教会の帰り道我々がぶらぶら歩いていると、横道から親子連れがでてきた。 金髪の少年は紺のジャンパーに赤いズボン。 お母さんにしっかりと掴まっているが、我々を認めて何か気になるらしい。 私がちょっと手を振ったからなおさら気になる。 何度も何度も振り返る。
お母さんはその都度何かを話しかけている。 「ほら、ちゃんと前を見ないと危ないわよ」等と言っているのだろう。 向こうの歩くペースがだいぶ落ち、私達が追い越すこととなったので、追い越しざま「何と可愛い子でしょう」と話しかけると、若いお母さんはにっこりほほえんでサンキュー。

 

 

 

 

雨  宿  り (セント・オルドウィンからバイブリーへ)
Shelter from rain (On the way to Bibury from St.Aldwyns. )

 

セント・オルドウィンからバイブリーへの帰り道である。 例によってこの付近もパブリック・フットパスがどう走っているのかはっきりしない。 不安にかられながら牧場の中をさ迷っていると雨が降り始めた。 それまでに体験した英国の雨というのは、大変に粒が細かく密度も薄く、帽子とジャンパーさえあれば平気だったが、この時ばかりは違っていた。 日本での土砂降りに近いものだ。 私達はあわてて近くの木の下に逃げ込んだ。 この付近の木は裾が大きく広がっていて傘のような形となっており、雨宿りにはぴったりだ。 木の下にはすでに先客がいたが、快く(?)私達を迎えてくれた。 少々の雨でも平気で草を食む彼らもこの時ばかりは参ったのだろう。 木の下でほっとしながら雨を拭いあたりを見回すと、少し離れた木の下でも彼らは思い思いのポーズで雨宿りをしている。彼らのシルエットがなんとも微笑ましい。 恨めしく思っていた雨だったが、この光景を見て、私の恨みや疲れは吹き飛んでしまった。

On our way back to Bibury from St.Aldwyns. The public footpath was not easy to follow in the neighborhood. Not knowing which way to go, we were wanderingin a meadow. All of a sudden it began to rain. We already experienced the subtle rain of England, but this time it was quite different. It was rather similar to a downpour in Japan. We hurried to a big tree nearby. As many of other trees aroundthere, it was like an umbrella in shape and made a perfect shelter from the rain. Those who had already arrived accepted us quietly. They usually go on grazing even in rain, but this rain seemed too hard. At a distance I found other sheep also taking shelter from the rain in various postures, which made me smile. At first I hated the rain, but the sight of them made me very happy and I was sure that I was making a good trip.  

 

 

羊の親子がハロー

 

先程までの豪雨も止み、曇り空から時々陽が差し始めた。 本当にイギリスの天気はめまぐるしく変化する。 フットパスはここで先程とは違う牧場の中を横切っている。 牧場のそこここで羊達が草を食んでいるが、彼等の我々に対する反応は実にさまざまである。勿論どの羊も、どんなに食事に夢中でも、ちょっと会釈をして(何となくそう見えた)道をあけてくれるあたりは流石に紳士の国である。 問題はその後の我々との距離の取り方だ。 ずっと遠くへ行っておびえたふうでこちらを見ているもの、ちょっと体をずらすだけで相変わらず食べ続けるもの、道を空けてから2、3m先でけげんそうにこちらを見ているもの。中には愛想のいいのがいて、わざわざ近くまでやって来て「ハロー」とにこにこしている。 その子供も一緒にこちら迄やって来て母親と一緒ににこにこしている。 羊にも個性は在るものなんだ、とか、親の後ろ姿を見て子は育つ、等としきりに感心する。

 

 

 

菜の花と羊の親子 ( セント・オルドウィン ) Rapes and sheep (St.Aldwyns)

 

しばらく行ったところでようやく牧場の中の道は終わりとなる。 扉を開けて隣の菜の花畑行こうとすると、その中で羊の親子が草を食んでいる。 勿論そこは羊は入ってはいけないところだ。 菜の花畑なのだから。 どこかの隙間から侵入したものと見える。私が優しく「そこへ入っちゃ駄目だよ」と声を掛けると、親羊は一瞬大変に困った顔をしたが(上の写真)、次の瞬間いきなり全速力で駆け出した。子羊たちもそれを追う。柵沿いに走ってなんとかこちらの側に戻ろうとしているのが、はっきりと見て取れる。 その様子からして、この親は悪いと知ってて隣の畑に侵入したのだ。
私に悪事を発見され必死で逃げようとしている。きっと以前に現場を押さえられ、しこたま絞られたことがあるに違いない。 私はふと、ピーターラビットが畑を荒らして追いかけられる場面を思い出した。

 

 

麦畑の中のフットパス

 

 

 

バイブリーのバラ (バイブリー)  Pink roses beside the footpath  (Bibury)  

 

パブリック・フットパスは牧場や畑を過ぎて民家の庭先にさしかかった。「英国人は皆一流の庭師だ」という言葉は日本で何度も耳にしたが、それは本当かも知れない。公園や道路は勿論、町中の民家も田舎の農家も、どんな家でも実に美しく花で飾り立てている。石の持つ単調さ冷たさを和らげるには花で飾るのが最も良い方法なのかも知れない。
この民家は、コッツウオルズ特有のライムストーンという蜂蜜色をした石灰岩で出来ているが、広い裏庭は勿論、家の周囲全体に色々な草花を植えている。この石を背景にした沢山の花々は実に美しく、つい立ち止まって見とれてしまった。 この家の人は、壁の色と草花の色との調和を大切に考えて庭作りをしていると思われるが、特別な庭園やお金持ちの邸宅ではない、ごく普通の田舎の民家で、繊細な美意識で庭作りがされているところに、私は本当の意味での英国の豊かさを見た気がした。
 

 

 

 

スワンホテル (バイブリー) Swan Hotel (Bibury)

 

 

森の中の古い家(バイブリ−) (Bibury)

 

 

小雨の中の民家 (バイブリ−) (Bibury)

これでいよいよ私達の散歩も終わりである。軽い散歩のつもりで出かけたのに、出発してからすでに6時間も経っている。 雨に濡れながら歩いたせいもあるが、写真を撮りながらなので余計時間がかかってしまった。 妻に「ごめんごめん、もう写真は撮らないから」等と言いながら歩いていたのだが、後僅かで出発地のバイブリー・コート・ホテルという所で脇道の奥に何やら魅力的な雰囲気を保った小さな家々がある。 どうも昔からある集落のようだ。 これは何としても写しておかねば。 すぐ追いつくから先に行っててと言い放ち、小走りに脇道を進んでみる。やっぱりそうだ! もう3、4百年は経ったであろう建物たちが昔の雰囲気のままちゃんと集落ごと残っているのだ。 どうも現役の住居としても使われているようだ。
ほんの十件ばかりで、緑の木立ちの中で肩を寄せあっている集落を見ると、中世の人々の生活の様子がいろいろ想像され、不思議な感慨に襲われる。
 

このウォーキングではバイブリーとセントオルドウィン間の田園地帯を見て歩いたが、この他にもコッツウォルズの丘陵地帯に点在する小さな村々は大変に愛すべきものが多く、のんびりと畑の中のパブリックフットパスを歩いてみると、日本の田舎ではもう失われたであろう様々な情景に出会う事が出来る。
護岸工事をしていない自然の小川のせせらぎ、小さな水車、家禽達の散歩、子供たちの自然の中での遊び等々‥‥ その様な情景を心から喜び、何とかそれに心身共に浸ろうとしている自分を発見して、それら全てをかなぐり捨てて邁進してきた日本の近代化というのは、一体何だったのだろうかと改めて思案せずには居られなかった。

 

バイブリーからセントオルドウィンへの散歩終わり

 

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